2008年4月18日
中心静脈ライン
内科 有馬 喬
先週から本格的に4月から入職された有留先生、江口先生の研修が始まった。
(誤解の無いように追記するが、上記の名前は五十音順である。気を悪くしたりする
必要はない。)
有留先生は内科から、江口先生は外科からのスタートである。
今日の話は、そんな2人へのメッセージである。
「中心静脈ライン;Central Venous line(CV)」というものがある。
中心静脈とは上下大静脈と右房のことを意味する。
主に、内頚静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈からここへアプローチする。
人より早くできるようになりたい手技、やったことを自慢したい手技うちのひとつ
であろう。
実際、研修説明会に参加しても多くの徳洲会の研修医の先生が「うちの病院ではほ
とんどのCVを研修が入れさせてくれ、その数は・・・」みたいな説明を多くしてい
る。
当院も他の徳洲会病院と同じように、早くから色んな手技をさせている。
有留先生は早くもCV挿入を田村先生から教えてもらっていたようである。
しかし、以前にブログで書いたことがあるが手技は何回もやればできるようになる
に決まっている。
http://202.133.118.29/trainee_doctor/archives/2008/02/post_59.php
それより・・・
CVラインを確保する目的(適応)は?
CVライン確保の時の合併症は?
IVH(Intra-Venous hyperalimentation)とTPN(Total Parenteral Nutrition)の違
いは?
「IVHをとるから君も見学しないさい。」と言った某病院の指導医。この表現のおか
しいところは?
といった木村軍曹の得意とする質問などにも答えられなくてはいけない。
しかしともあれ、まずは必要最低限の手技は早くできるようになって欲しいので、
今年研修医を卒業した何年後かのカリスマ内科医(現在整形外科へ逃亡中)が自身の
経験を語ろう。
時代(とき)は2006年4月、階段を駆け上がると汗ばむ時期が訪れ始めていた頃。
当時の内科指導医であった「眠れる獅子・劉先生」は5階にアリマックマを呼び出した。
「今からCVを入れるから先生やってみようか?この前見たからね。」
「でも1回見ただけですよ?」
「だから、1回見たでしょ?」
「はぁ・・・。」
この時、劉先生が命じたのは鎖骨下静脈からの確保である。
「鎖骨下静脈、内頚静脈、大腿静脈、それぞれの場所からにおける挿入の利点、欠
点は後日聞きますのでまとめておいてください。はい。」
とは、劉先生は言わなかったが。
鎖骨下静脈からの挿入は鎖骨の下に穿刺針をくぐらせる必要があるのだが、これが
初めは非常に怖い。
ある程度針を立てて刺さないとくぐれないのだが、鎖骨下静脈の下には肺があるの
であまり針を立てると肺を刺してしまう。
ということもあり、最初の2回くらいはまるで入らず、「じゃあ、交替しようか。
」と劉先生に取り上げられてしまった。
この時、アリマックマは思った。
「劉先生の手袋が近くになければ看護婦さんが取ってきてくれるまでの時間で、も
う一回挑戦することができないだろうか?」と。
そこで次の時、アリマックマは劉先生の手袋6.5の手袋を全て包交車から取り出した。
予想の通りにCVラインは入らず、「じゃあ、交替しようか」と言われた。
「そうはいかんぞ。6.5の手袋は全て片付けておいた。甘いぞ、劉先生。ふ、ふ、ふ。」
「劉先生、6.5の手袋ありませんよ。」と看護婦さんは言った。
「じゃ、じゃあ7.0でもいいよ。」
「・・・え、いいの!?」
アリマックマの作戦は滴る汗と共に脆くも崩れ去った。
そこで、アリマックマは6.5と7.0の手袋を隠し、次の戦いに挑んだ。
やはり手こずっていると、劉先生は「手袋を。」と言った。
「7.5しかないですよ?」
「ふ、ふ、ふ。劉先生、手袋は全て僕のサイズに変えておいたよ。今日はこの前の
ようにいかないよ。いつまでも僕が同じ位置にいると思っているのかい?」
「すぐとって来ます。」看護婦さんは走って行った。
今のうちにもう一回。
「あ!」劉先生は言った。
「え?」
「今、血液が返ってきたから入ったんじゃないの??ガイドワイヤー入れてみて。」
ガイドワイヤーはまるでアリマックマの勝利をたたえるかのごとく、スルスルと入
っていった。
その時、ピロリロン、ピロリロンとアラームが鳴った。
当時、アラームの意味すら知らなかったアリマックマは「アラームも祝福してくれ
ているのか?」なんてぶっ飛んだことを考えていた。
劉先生は言った。
「先生、ワイヤー入れすぎ。心臓に届いて不整脈出てるよ。」
「・・・。」
まだまだなアリマックマであった。
その日の帰り。
「先生、今日内視鏡の飲み会あるんだけど、 CVも初めて入ったし先生も行かない?」
と劉先生から誘いがあった。
「もちろんです。」
これからのアリマックマの華やかなる研修をたたえるかのように、ビールの艶やか
な泡の音が聞こえた。
しかし、アリマックマに待っていたのは、この飲み会の時、とある先生に踏んづけ
られてディスプレイが真っ二つになったパソコンの哀れな姿であった。
おしまい。
お疲れ様です。初コメントです。
返信削除手技を磨くことも大事だけど、それ以上にその手技がいま必要だと判断できる感性を磨くことがもっと大事ですね。いろいろやらせてもらえて充実していますが、理論と適応を置き去りにしないよう気をつけます。
しかし、アラームが祝福とはさすが常人では思いつかないような発想ですね(笑)劉先生の淡々としたツッコミも容易に想像できて、読みながら少し吹きました。
パソコン壊れて最悪でしたね。
返信削除IVHは外で使うと恥ずかしいですから、ちゃんと覚えておいて下さいね。もっと厳しい人がいる病院では、そんなつまらない事で損をするかもしれませんから、、、
それから、これだけの文章のなかにCVを入れる時に気をつけなければならない事を面白おかしく、ほとんど網羅しているのはすごいです。「ありまっくまの研修医道場」みたいな教科書を是非書いて下さい。ケアネットのDVDでもいいかも。
当院の指導医の先生方は、色々な手技を行う際、その行おうとする閾値を敢えて低くしてくれています。我々のお勉強の為に。
返信削除適応自体は少し微妙だが、やっても悪くない時はまず「やらない?」って聞かれると思います。
従って、指導医の「やってみますか?」の質問に対して「やります。」以外の返事は有り得ません。
医局の机でできる勉強は家でもできます。このような機会を逃さないためにも、病棟の患者さんのところはもちろん、院内を怪しいくらいうろつきましょう。
そうです!「やってみますか?」に対しての返事は一つしかないのです。指導医は「やりなさい」と言っているのです。
返信削除難しいだろうなとか、色々問題があればやれとは言いません。必ず経験するようにしましょう。