2010年3月5日
否定するのは難しいです。
救急部長 木村圭一
たまには学術的な記事も、、、、先日研修医の先生が「女性の腹痛」という勉強会をしてくれました。産婦人科研修の中で勉強したことを紹介してくれました。大変勉強になりました!
その中で子宮外妊娠について発表があり、「妊娠反応が陰性だったら子宮外妊娠は否定できる」と習ったと言われていました。
寺沢先生の本(研修医当直御法度 症例帖。以下青本)を読んでないな?と思い、コメントさせていただきました。子宮外妊娠では妊娠反応が陰性のことがあるので注意しなければならないと。
人間の記憶は曖昧ですので、本当にそうだったか調べてみました。青本を見ました。「子宮外妊娠の時には尿の妊娠反応が陰性の事が多い」と読んだ気がしたのですが、そうは書かれていませんでした(ごめんなさい)。
UpToDateの「Clinical manifestations, diagnosis, and management of ectopic pregnancy」と言う文献には、卵管妊娠(子宮外妊娠で一番多いもの)ではhCGの上昇が遅いことが研究で確かめられていると書かれています。
メルクマニュアルには、以下のようにあります。
http://merckmanual.jp/mmpej/sec18/ch263/ch263e.html
「診断には尿のヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(β-hCG)測定を必要とするが、これは妊娠(子宮外およびその他)に対して約99%の感度がある。尿のβ-hCGが陰性であり、臨床所見が子宮外妊娠を強く示唆するようなことがなければ、症状が再発するか悪化しない限りさらなる評価は必要ない。」
これは最後が重要だと思います。臨床所見が強く示唆すれば,さらなる評価が必要と言う事ですね。
別の文献によれば(研究対象が違うみたいですが)、子宮外妊娠におけるhCGの感度:は81%、特異度は78%だそうです。2割も見逃すと言う事になりますね。
http://www.city-nakatsu.jp/hospital/folder_digest/digest200811/28_yuge.pdf
尤度比などを計算してみると、、、、子宮外妊娠の可能性が90%と考えたとすれば,事前オッズは9。
陰性尤度比は、(1ー0.81)÷0.78=0.244
事後オッズは9×0.244=2.1です。68%程度です(計算間違っていたら教えてくいやん)。妊娠反応が陰性でも、子宮外妊娠の可能性が7割近くあります!子宮外妊娠を否定することは難しいですね!
以下の文献には、intestinal ectopyと言うのがあって、尿中hCGは2回陰性、1回弱陽性だったとありました。
http://emedicine.medscape.com/article/262591-overview
以前書いたかも知れませんが,このように、「何々でないから(だから)何々でない」と否定するのは難しいです。
高血糖でないから糖尿病ではない
乏尿がないから脱水ではない
貧血がないから出血ではない
胸がないから女性ではない(すみません!)
○○がないから男ではない
若く見えないから研修医ではない(昔の私です(^_^))
実際の診療では、期待する結果が出なかった場合には、否定するのではなく、その病気の可能性もあると考えながら診断しなければなりません。
Negative findings means nothing!