2007年12月20日
外科研修①
2年次研修医 有馬 喬
今日は外科研修でのお話。
「何科になるの?」
誰しもよく聞かれると思うが結構変わるものである。
初めは心臓血管外科になる予定だった。
何年後かにテレビで「消えゆく命を繋ぐ瞬間!神の手を持つカリスマ心臓外科医」と
してゴールデンの特番に出演するはずだった。
入職時は多発外傷を得意とする外科になる予定だった。
何年後かにテレビで「あの事故からの奇跡の生還!神の手を持つカリスマ外科医」と
してゴールデンの特番に出演するはずだった。
今は田村内科部長率いる内科に入る予定である。
何年後かにテレビで…。
この先はまだ公開しないでおくことにする。
あまり手の内を知られると面白みが無くなる。
若干ミステリアスな部分を秘めている方が人を引き付ける。
(・・・と、何かの本に書いてあった。)
10の言いたいことがあったら、7か8くらいで一旦止めておくのがいいようだ。
さて、外科研修中のお話である。
個人情報のこともあり、医師名以外の状況設定全てを巧みに変えてあることをご了
承頂きたい。
「そんな症例なかったやろ?嘘ついちゃいかんめ!」と言いそうな方がいるので先に
断っておく。
その日は手術日ではなく、外科は平和な一日のはずだった。
秋も深まり、外科研修始まって間もないということもあって、妙に劉先生の背中が
懐かしい頃だった。
突然、館内放送が鳴る。
「救急ER(emergency room)!救急ER!5分後、CPA(cardiopulumonary arrest)!」
ERへ走る。1分後、救急車が来た。
どうやら事故のようだ。
「若い!まだ20歳そこそこじゃないか??」
直ちにCPR(cardiopulumonary resuscitation)開始した。
当院ではBLS(basic life support)、ACLS(advanced cardiovascular life
support
)受講は必須である。
速やかに心拍は再開し、人工呼吸器にのせた。
エコーで腹部を検索する。
FAST(Forcused Assessment with sonography for trauma) というものである。
今回は略語の元が書いてあるコトに疑問を持つ人もいると思う。
当然である。
木村先生の前で安易に略語を使うことは禁忌である。
使おうものなら、
「先生は!この略語の元は知っていますか?知らないならちゃんと調べておいてくだ
さい。はい。」とすぐさま撃沈である。
今回は外科研修中の話なので特に気を遣ったつもりである。
話を戻す。
エコーでは腹腔内出血と思われる所見を認める。
出血性ショックの状態であり大量輸液を行った。
すぐにオペ室に搬入した。
大量輸液に反応しない(血圧が安定しない)腹部外傷患者にCT撮ってる暇はない。
エコーで診断して直ちにオペ室である。
手術には木村先生、城間先生、僕の3人で入った。
お腹を開くと、血が噴き出した。
眼鏡に血が飛んだ。
眼鏡に血が飛ぶのは医龍、巨塔、コトー、振り返れば奴がいる(古!)だけかと思って
いた。
血が止まらない!どこから出てるのか…?
その時、木村先生が腹大動脈指で押さえつけた。
「有馬先生!今俺が押えてるところ代わって。そして反対の手でしっかり吸引して。
ちゃんと押えないと、この人死ぬよ。」
ちょっと手が震えた。
しかし、その間に先生達が損傷した脾臓をあっという間に取ってしまった。
少し血が止まった。
その後、術野もよくなり、手術は進んだ。
これがいつもカラオケで「ナインティンナインスリ~(ここでちょっと声が裏返る)
、恋をした~Ah君に夢中…("夏の日の1993"より)」なんて歌ってる木村先生か?
これがいつも飲み会になると、「有馬君、こっち来てん、誰がそっち行っていいっ
て言った?」と言ってちょっとよく分からないお説教する城間先生か?
「外科医ってすげー!」って思った。
秋深まる11月中旬。
秋風がそろそろ冬の始まりを伝えようとしていた頃、
この病院では今日もひとつの命が救われようとしていた。
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