2008-10-08

「定食」よりも「アラカルトメニュー」を頼みましょう

2008年10月8日

「定食」よりも「アラカルトメニュー」を頼みましょう

内科部長(研修委員長) 田村幸大


「田村先生、スクリーニングセットの項目を全部言ってみて」と指導医に言われたの

は、まだ研修医の1年目半ばの事でした。


意表をつかれた私は、”この人、何を今さら聴くのだろう”と不審に思いつつ、一方

ですべての項目を思い出せない事に焦りつつ「GOT,GPT,LDH,γ

GTP,BUN,Cr,Na,K,Cl,Glu・・・後は思い出せません」と答えました。


「田村先生、今日から内容を理解していないセット検査を出す事は禁止だよ」と冷た

く言い放たれました。


その当時は手書きの検査伝票で、セット検査を選択すれば1カ所のチェックで一気に

10項目以上の検査を出す事が出来ました。一方、一項目ずつチェックしていくと出し

たい項目数と同じだけチェックを入れなければなりません。


医師になって半年、すこし上級医と同じように仕事が出来る部分も出来て来ました。

セット検査をパパッとつけて去っていく上級居が格好良く見えて、自分もそんな感じ

で検査をオーダーするようになっていました。そんな環境でしたので、”他の先生達

はみんなやっていますよ”と少し反発する気持ちを持ちつつも、一応「はい」と返事

をしました。


セット検査のメリット:時間の短縮、いつも同じパターンで出るので周囲も間違えな

い、漏れが無い

セット検査のデメリット:意味を理解しないままオーダーしてしまう、必要が無い検

査項目まで一緒にチェックされてしまう(例えば肺炎で入院した患者さんに3~4日

おきにアルブミンやコレステロールをチェックする意味はまったくありません)


その指導医の先生は、”検査は結果を見る事で治療方針に影響を与える物しか出す意

味が無い。結果が白でも黒でも方針が全く変わらない検査はお金の無駄。セット検査

ばかり出している先生はその項目が本当に必要かどうか考えなくなってしまう。長年

をそれをやり続けているとただの検査オーダーを出すマシーンに成り下がってしま

う”と言いたかったそうです。


頭を殴られたような感覚を覚え、それからはセット検査を選択せず、一項目ずつ”こ

の検査で何が分かるか””この検査結果によって治療方針が変わるか”と考えながら

オーダーするようになりました。その後、セット検査の項目を確実に答えられるよう

になり、それぞれの項目の意味を説明できるようになるまでセット検査のオーダーを

封印しました。


今でこそセット検査をよく出していますが、このセット項目から漏れている物は何

か、毎回調べなくても良い物は何かをすぐに答えられるよう努力しています。


正直、指摘された当時は言われている事の意味を十分に理解していませんでした。し

かし、言われた事をしっかり守り、一項目ごとに意味を考えて出す作業を続けた事が

今の自分を作ってくれていると思うと指摘して頂けた事に今さらながら感謝していま

す。


セット検査をすばやくチェックして去っていく上級医も格好良いけど、検査の意味を

しっかり考え無駄な検査を出さず目の前の患者さんに必要とされている事をよく考え

て検査を出していく上級医はそれ以上に格好良いと思うようになりました。


有留先生、その定食のサラダは本当に必要ですか?

江口先生、その定食の漬け物は本当に必要ですか?

有馬先生、その看護師さんのメルアドは本当に必要ですか?


最後は余計でした。



7 件のコメント:

  1. Takashi ARIMA@Cardiovascular Surgery(Period limitation)2008年10月8日 23:18

    これはこれは、内科の田村教授、わざわざ忘れられた頃に小生の名前を出していただきありがとうございます。
    全く同じ質問を教授にされたことは今でも覚えております。
    小生は残りのT-choが答えられず、思わず、「BNP」と答えました。
    次の瞬間、「明日からセット使用禁止令」が発令されたのは言うまでもありません。
    しかし当時、有留先生より優秀で江口先生より機転の利いた1年目の有馬先生は「自分はもともと心臓外科になるつもりだったのでBNPはスクリーニングなんです。」と答えました。
    思わぬ1年目の反抗的な態度に田村教授は「じゃあ、BNPはどれくらいあったら先生は追加の検査をしようと思うの?」
    と、自分の武器が「グラム染色」と「ペニシリンG」しかなかった有馬先生にはきつい質問でした。
    本題に戻りまして、自分にとって本当に必要なメルアドか当直中に考えたいと思います。
    以上、心臓血管外科有馬でした。

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  2. 木村 圭一2008年10月9日 3:51

    貴重なお話ありがとうございます。私も研修医の時に同じように習いました。が、逆に検査室の美人ギャル(当時は携帯などなかったので、、、有馬先生がうらやましいです)に、一つずつオーダーされると、入力するのが大変なので辞めて下さいと言われました(+_+)。当時から大隅鹿屋病院は素晴らしいスタッフがそろっていたのですね!
    上司からの言い伝えはこうやって後世に伝えられて行くのでしょう!

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  3. 木村 圭一2008年10月9日 4:48

    書くのを忘れました。
    徳之島にいる田頭先生、食後のケーキは必要ですか?

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  4. 第一内科教授 田村幸大2008年10月9日 10:25

    数年前に私が有馬先生に教えた事を、有馬先生が有留先生に、さも昔から知っていたかのように教えていると、臼井さんから時々聞きます。
    親から子へ、子から孫へという感じで微笑ましく眺めています。
    これを30年、40年と続けていくと院長からレジデントまで同じ文化を共有した沖縄県立中部病院のようになるのでしょうね。
    ちなみに有馬先生、研修医の一年目の時期の武器が「グラム染色」と「ペニシリンG」なんて凄い事じゃないですか!グラム染色なんてやらない、ペニシリンGなんて使わないという病院がたくさんありますから、しっかり感染症診療のスタンダードを学んでいた証拠でしょう。

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  5. 有留 大海2008年10月10日 4:16

    セット検査の話、確かに有馬先生から最初に言われました笑 あたかも俺はこれくらい自然と身につけた、風に教えられたと記憶しています。僕も上の先生たちに教えられたことを、実習に来た学生さんたちに必要な形で伝えようと努力しています。僕は上がこうやって教えてくれたから、君らが来たら僕もこうやって教えるよというスタンスで教えています。とまぁこんなこと言ったら、有馬先生がいい子ぶりやがって!とか言いそうですが笑
    そんなわけで、僕はあまりセット検査使ったことないです。ただ、じゃあその疑った疾患だった時に、出した項目の感度・特異度はどうなのってそこまではまだしっかり勉強していません。まだまだ僕には勉強すること=のびしろがあるということで、今後も精進する所存です。

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  6. 有留 大海2008年10月11日 0:53

    有馬先生にお前いい子ぶりやがって!と言われたので、ここで報告させていただきます。
    田村先生、有馬先生に後輩のいたわり方を教えてください(涙)

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  7. 田村教授、内科で有留に何を指導して頂いたんでしょうか?
    僕は劉先生が医局で爆睡してても、ピッチに出た声が寝起きでも、ケータイにつながらなくても絶対に師匠を人前では否定しませんでしたよ(涙)
    あ!有留先生が実は僕を師匠とみなしてないだけですかね??

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