2008-02-24

有馬少年物語 -とあるノコギリクワガタとの思い出-

2008年2月23日

有馬少年物語 -とあるノコギリクワガタとの思い出-

2年次研修医 有馬 喬


その日は天気のいい土曜日だった。

どこまでも続く青い空には白い雲が1個だけ浮かんでいた。


少年の小学校では土曜日に集団下校をしており、家の近い1-6年生が一緒に下校する



運動場に集合している時、友達のひとりがなぜか紙コップを持っていた。

「それ何?」

「クワガタ」

中には大きなアゴを持つノコギリクワガタが入っていた。


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少年の家は平地に建っていたので、滅多に家にはクワガタはやって来ない。

ゴキブリはたくさんいたが…

その友人の家は山のほうだったのでたくさんクワガタもカブトムシも捕れるらしい



少年はそのクワガタが欲しくなった。

友人に何回もお願いして譲ってもらえることになった。


早速、家に帰り少年は父親に連れられ、近くの店に飼育用品一式を買いに行った。

1匹飼うのには大きすぎる飼育箱を買ってもらった。

少年は毎日夜9時にエサをやった。

世の小学生らしく画用紙を引っ張り出し、スケッチも描いた。

少年は絵が苦手だったので、あまりうまく描けた記憶はないが。

神童にも苦手な事はある。

中学校の時は美術の先生と仲が悪く2か3しかもらったことがない。

一回だけ美術が5だったことがあるが、後々その先生に聞いたところ、なんと誰かの

成績と間違えてたらしい。

全くいい加減な奴だ。


クワガタは昆虫綱甲虫目クワガタムシ科に含まれる昆虫である。

2年間、土の中で幼虫として生活するものが多いらしい。

少年のもらったノコギリクワガタは、幼虫で1年目の冬を越し、2年目の秋に羽化し

て成虫になるが、その年の冬はそのまま土の中で越冬する。

そして3年目に土の中から出てくる。

一般に土の中から出た後は越冬はしない。

飼育環境によっては越冬することもあるらしい。


少年のクワガタは長生きだった。

ちょうど今頃、2月あたりくらいまで生きた気がする。

「越冬するかもね。」

と言われ少しわくわくしてた。


しかし、別れは突然やってきた。

いつものように夜9時にエサをやりに行くと、エサを入れる容器の前で動かなくなっ

ていた。

「死んだふりか?」

手にとってみるがやっぱり動かない。


少年が全てを理解するまでにそう時間はかからなかった。

「死んじゃった…」

少年はひとり涙を堪えた。


「お前がちゃんと世話したから長生きしたがね?明日ちゃんと埋めてやりなさい。明

日埋めてやるまではお前の役目だから。」

落ち込む少年にそう父親は言った。


我慢していた涙があふれ出した。

その夜、少年の枕は1匹のノコギリクワガタと過ごした8ヶ月分の思い出で濡れた。


次の日は土曜日だった。

赤い目のまま学校から帰ってきた少年は、小さい赤いスコップを手に庭へ出た。


昨日の夜で涙は枯れてもう出なかった。

「ばいばい。」

そう言うと少年は静かに土をかぶせた。

ふと気付くと後ろには少年の祖母が立っていた。

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http://202.133.118.29/trainee_doctor/archives/2007/12/post_26.php


「この花を飾ってあげないね。」

手には、白と黄色のスイセンが握られていた。

「うん。」

「また会えるといいね?」

「どこかで待っててくれてるよ。」

「ばあちゃんも死んだら待っててくれる?」

「ずっと待ってるよ。」

少年の目からは、昨日枯れたはずの涙が再び溢れていた。


その日は天気のいい土曜日だった。

どこまでも続く青い空には、初めて出合ったあの日のように、白い雲が1個だけ浮か

んでいた。




おしまい。



3 件のコメント:

  1. 木村 圭一2008年2月25日 6:49

    今日は一緒に飲めず残念です。
    命の大切さを思い出させる良いお話ですね。
    これからも命の大切さを訴え続けてくいやん!

    返信削除
  2. 木村先生。今日はドタキャンしてすいません。
    今回はリクエストの多かった少年時代を舞台にしてみました。続編はまた後日。

    返信削除
  3. 木村先生。今日はドタキャンしてすいません。
    今回はブログに書いて欲しいとリクエストの多かった少年時代を舞台にしてみました。続編はまた後日。

    返信削除

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